～“祈りの国ブータンへの参拝旅行紀行記”　住職　高山 誓英の記録～

また、ブータンでは、観音菩薩を祭るお寺が多い。
7世紀に作られパロに現存するキチュ・ラカンにも十一面観音菩薩と千手観音菩薩が安置されている。このことは、観音菩薩の信仰が篤いことを示している。
ブータンの観音信仰は、7世紀チベットを統一したソンツェン・ガンポ王が、チベット全域に大きな力を持っていた魔女の力を封じる為チベット、ラダック、シッキム、ブータンの各地域に108つの観音菩薩を安置して鬼門を封じたことが始まりなのだそうだ。

キチュ・ラカンもその内の一つで「魔女の左足を封じる観音菩薩」と言われている。
日本流に言い換えると「魔除け、厄除けの観音様」として信仰されているということだ。
このようにブータンでは、日常生活や人々の心の中に「現世利益の信仰」と共に密教の教えが深く浸透している姿を見ることが出来る。

ドルジさんのお父さんは、ブータンの仏教大学で密教を教えている大学の先生だと言う。
その為、ドルジさんも密教の勉強を納めている。だから密教に関しては専門的であり大変詳しい。
私とは深い所でよく話が通じるものがあった。

本堂から戻る途中、様々な柱に「宝珠（桃のような形をした珠）の仏画」が描かれていた。
私が「これは、宝珠の絵ではないのか」とドルジさんに尋ねた。
するとドルジさんは「そうです。宝珠は、宝やお金が貯まる意味を持っています。もし僕が仮に宝珠を持つことが出来たら一生何もしないで暮らしますよ」と言ってはしゃいだ。
私は、「今年5月、私のお寺である札幌分院で、新しく入仏した虚空蔵菩薩の開眼法要を行なった。実は、その虚空蔵菩薩の左手には、三遍宝珠という宝珠を持っておられるのだよ」とドルジさんに話した。
するとドルジさんは「それはすごい。高山さんは、お金持ちに成れるね」とお世辞を言ってくれた。

この話からも分かるようにブータンでも日本でも、密教が持っている庶民のささやかな願いや思いを成就させようとする「現世利益の信仰」が共通に持ち合っていることを伺い知ることができた。
このような信仰に対する考え方は、私にとって大変参考になるものであり収穫の多いものであった。